ルフィがベラミーの喧嘩を買わなかった理由は傍観者だったから
出典:ONE PIECE/25巻/85p
ONE PIECEの24巻で、ハイエナのベラミーという男が登場します。
初登場時は、実利主義者であり、【その他大勢】の化身のような人物でした。
夢の宝より、足元の利益を追求する男。それがベラミー。
ONE PIECEに喧嘩売る度胸も無いから
出典:ONE PIECE/24巻/162p
ベラミーは海賊を名乗りながら、当事者でない。
既に、傍観者的な発言をしています。
つまり、自分の信念の旗を掲げる戦いに、参加すらしてないんですよ。
言い換えると、最初から諦めてるんです。
だから、ルフィとベラミーは、同じステージにすら立ってない訳です。
これは所謂、ベラミーのルサンチマンだったりもするのかなと感じます。
何故なら、ベラミーも結局は空島へ赴くからです。
参照記事:ルサンチマンって誰だよ!?
傍から見れば、荒唐無稽に見えるようなルフィの戦い方にも、実はルフィなりの筋が通っています。
確か何処かで、ロビンがルフィの事を「彼は意志の無い戦いはしない人よ」って言ってたと思うんですけど、ルフィの喧嘩には、基本的に意志があります。
上の画像にもあるように、いつも熱くなる筈のルフィが、今回のベラミーに絡まれたエピソードでは、異様な程、冷静に佇んでいるんですよね。
出典:ONE PIECE/76巻/129p
この事から、精神的なスケールが違い過ぎたって事が、ベラミーとルフィ、2人の温度差からも、窺い知る事が出来ますよね。
この時点で、勝負になってない。
ルフィが戦う動機って、基本的に【自由を脅かす支配者に抗う】っていうパターンが多いんですよ。
これはルフィが、「誰よりも自由なヤツが海賊王だ」と定義している点からも明らかです。
ルフィにとって海賊王とは、自由の象徴なんですよ。
世界一の海の王者になろうと、勝ち上がってきたルフィからすれば、幾らベラミーに笑われて、焚付けられようが、既に戦う事を諦めてる程度の男に対して、戦意なんて持てないって事ですよね。
簡単に言えば、眼中に無いって話です。
例えば、ルフィが冒険を進めた新世界の入り口、シャボンディ諸島で、最悪の世代と呼ばれる海賊のルーキーが集結した時の話。
その時点で、懸賞金の一番高かったキッドが、「ワンピースはおれが見つけるぞ」って、臆面もなく言うルフィに、「この先は…それを口にする度胸のねェ奴が死ぬ海だ」って言う訳ですよ。
出典:ONE PIECE/52巻/59p
出典:ONE PIECE/52巻/60p
つまり、ルフィがベラミーの喧嘩を買わない理由は、喧嘩を買う理由がないからです。なんかトートロジーになっちゃいましたが。
ルフィなりの倫理規範に基づくなら、ONE PIECEに喧嘩売る度胸も無い海賊に、怒りを買う理由がない。
クリケットも、ベラミーをこう捉えてます。
「幻想に喧嘩売る度胸もねぇヒヨッ子」だと。
出典:ONE PIECE/24巻/100p
【負けるが勝ち?】肉体的な痛みよりも男としての尊厳を重視する
出典:ONE PIECE/24巻/100p
血だらけにされてるにも拘らず、ルフィは【喧嘩を買わない】っていう選択を取る。ゾロもそれに従う。
読者からすれば、ナミと同様の心境になりますよね。「なんでやり返さないの?!」と。
ここ、めっちゃフラストレーションなんですよねー。これがあるから、オチのカタルシスが跳ね上がる。
その描写によって見えて来る、ルフィとゾロの、男としての品格、スケール感。
如何に彼らが、生き様を重視しているかが窺い知れますよね。
まるで、肉体が傷付けられた事なんて、取るに足りない出来事だと言わんばかりに。
では此処で、武士道で語られている勝海舟の話を、以下に引用します。
ここで、先年亡くなった勝海舟の言葉に耳を傾けてみよう。
彼はわが国激動の時代を生き抜いた人物だが、当時は暗殺や切腹などの血なまぐさい出来事が日常茶飯事だった。
海舟は独裁的な権力を持っていた時期もあり、たびたび暗殺の目標とされた。
しかし、彼自身はその刀を血で汚すことはなかった。
彼は思い出話をある友人に語っているが、その中で、彼らしい庶民的な語り口でこんなことを言っている。
「私は人を殺すのが大嫌いで、ひとりも殺しちゃいない。首をはねたほうがいいようなやつでも放っておいた。あるとき友人の河上 彦斎がこんなことを言った。『あんたは人を斬らなすぎる。あんただって、芥子やら茄子やらを食べるだろう?』ってね。芥子や茄子に劣る人間もいたからね。だが、河上は殺されちまった。私が殺されずにすんだのは、殺すのが嫌いだったからかも知れんよ。刀の柄をきつく鞘に結びつけて、簡単に抜けないようにしといたんだ。斬られることはあっても、斬ることはすまいと覚悟を決めてたのさ。ああ、もちろん、のみや蚊みたいな連中もいて、ちくちく刺してはくるよ。しかし、刺されたからってどうってこたあない。ちっとばかりかゆいが、それだけのことだ。命に関わりはしないよ」
これが、苦難と勝利とが入り混じって燃え盛っている炉のような時代にあって、武士道教育の真価を問われながら生き抜いてきた人物の言葉である。
出典:武士道/新渡戸稲造
上記のように、ルフィもゾロも、この時の認識としては、ただ痒かっただけなのかも知れませんね。
ルフィとゾロの野望は、強さを拠り所としたところにあるので、平和を理想としてるとは思えませんが、結果的には【負けるが勝ち】の態度になってますよね。
「負けるが勝ち」という有名なことわざがある。
本当の勝利というのは、むやみに攻めてくる敵に抵抗しないことによって得られるという意味である。
また、「最上の勝利は、血を流すことなく勝つことだ」という言葉もある。
他にも同じような格言がたくさんあるが、要するに 武士道における究極の理想は平和だということである。
かえすがえすも残念なのは、この高邁な理想が、もっぱら僧侶や道学者が説教するだけのものになってしまい、さむらいたちは軍人らしさを尊び、追い求め続けたことである。
出典:武士道/新渡戸稲造
参照記事:【武士道】2020年東京オリンピックに向けて日本人が知っておきたい大和魂の源流【ONE PIECEで解説】
ルフィと黒ひげの共通点
ONE PIECEの24巻では、ルフィと黒ひげが初対面するシーンがあります。
2人の価値観が対極にある事を、以下の2コマで示唆されていますね。
出典:ONE PIECE/24巻/142p
ところが、以下のシーンでは、【夢】という観点に於いて、ルフィと黒ひげ。
2人の見ている未来が一致している事が、明示されるんですよ。
出典:ONE PIECE/24巻/178p.179p
ルフィも、黒ひげも、両者共に、男として純粋なものを持ってますよね。
黒ひげって、巨大なイカダで海を進んだりと、やってる事が豪快過ぎるから、一見バカみたいに見えるけど、頂上戦争を引き起こした張本人ですからね。
黒ひげは、白ひげの能力を奪う手段の為だけに、エースを落として、七武海に成り上がった訳で。
用が済んだら、速攻で七武海の称号を捨てて、一気に四皇にまで駆け上がった男です。
常に目的からの逆算で動いている、策略家ですよ。
やり方は非道ですが、それはそれでカッコイイ。THE海賊って感じ。
出典:ONE PIECE/24巻/p
【黒ひげ】と【ゾロ】が語る傍観者への態度
出典:ONE PIECE/24巻/p
傍観者程、人を見下し、嘲笑する。
この黒ひげのセリフは、野心家への鼓舞であり、その他大勢の傍観者に対するアンチテーゼでもある。
例えば、悔しいっていう感情があります。
それを持つ事になるのは、それ程真剣に、参加して来たからです。
何も感じないのは、何も試みてもいない傍観者だったからなんですよ。
それを知ってたら、真剣に矢面に立ってる人間を笑う事なんて、できないですよね。
ルフィは、シャンクスを知ってるんです。そこに行きたいんです。大海賊を超えたいんです。
出典:ONE PIECE/24巻/p
このシーンで、ゾロの認識は最早、大人と子供くらいの精神的な視座の違いがあるって事が解ります。
「同情しか残らねぇ」って、言ってる時点で勝ち負けの次元に無いですよね。
ファイト! 闘う君の唄を
闘わない奴等が笑うだろう
ファイト! 冷たい水の中を
ふるえながらのぼってゆけ
出展:ファイト!/中島みゆき
ルフィは仲間の自由を脅かす奴をぶっ飛ばす
ルフィが【仲間】とか【友達】だと定義する人。
その基準は、かなり緩いように見えます。
すぐに「友達だ!」とか言っちゃう。結局、先の話で、ベラミーにも友達だと言っちゃうんですよね。
その点は、なんか幼稚と言うか、アホっぽいと言うか。
でも、その定義の範疇にある人の自由が奪われる時、ルフィは反撃する。
ベラミーを一撃で地面に沈めたのも、クリケットが潜水病になる程に、海に潜り続けて手に入れた金塊を奪われたから。
出典:ONE PIECE/24巻/118p
出典:ONE PIECE/24巻/123p
出典:ONE PIECE/24巻/124.125p
近代に活躍したフィンランドの作曲家が、こんな事を言っています。
批評家のいうことに決して耳を傾けてはいけない。
これまでに批評家の銅像が建てられたためしはないのだから。
出典:ジャン・シベリウス
そういうことです。