論理とは何か?デザインとの相関を考察【ポイント編】
ビジネスシーンではよく、論理的(ロジカル)に話そうと云う言い回しが、当たり前のように普及しています。所謂、結論から言おう。というものですね。
これには、相手の貴重な時間を無駄に削らないようにする為の配慮と、端的にシンプルに情報を整理し、伝達する事で、何が言いたいのかが過不足無く伝わるようにする。そんな意図があります。
情報を効率的に伝える
PREP法と云うフレームワークが、それにマッチしますね。
これは、Point(結論) Reason(理由) Example(例示) Point(結論)の頭字語(アクロニム)です。
人が納得するための読解セットが、抽象と具体含め、必要最小限に形式化されています。この順序で主張を言及する事で、意思疎通の効率化が図れるのです。
心理学の観点から見るPREP
このフォーマットは、心理学の観点から見ると、最初と最後のPoint(結論)部分が、初頭効果と親近効果に相当します。
- 初頭効果とは、最初の印象がその後の印象にも作用する事。
- 親近効果とは、最後の印象がその後も残る事。
つまり人間の特性的に、最初と最後の印象は強く残り易い。と云うものですね。逆に言うと、中間の印象は弱くなるようです。
この点から、PREP法は要点が記憶に残り易い構成になっています。
情報を物語的に伝える
ところで何故、結論から伝える必要があるのでしょうか。結論から伝える事の有用性って何でしょう。人の思考はそもそも、根拠から結論に向かうプロセスを踏む筈です。
これを、推理小説の手法である、叙述と倒叙と云う観点から考察してみます。
叙述と倒叙の観点から見る、物語的なPREP
先ずは叙述と倒叙の定義について。
【叙述】とは
[名](スル)物事について順を追って述べること。また、その述べたもの。「事件をありのままに叙述する」
【倒叙】とは
現在から過去へ、時間を逆にさかのぼって叙述すること。「倒叙法で書く推理小説」
続いて、この概念と親和性の高いミステリーとサスペンスの意味も
【ミステリー】とは(mystery)
1 神秘的なこと。不可思議。謎。怪奇。「だれがやったか、それは今もミステリーなのです」
2 推理小説。
3 秘跡劇。聖史劇。
【サスペンス】とは(suspense)
《未解決・不安・気がかりの意》小説・ドラマ・映画などで、筋の展開や状況設定などによって、読者や観客に与える不安感や緊張感。また、その小説・ドラマ・映画など。「サスペンスドラマ」
さて、物語に於ける叙述。倒叙。ミステリー。サスペンス。この辺の定義って、明確な定義が無くて、何が定説で通説・俗説なのかもよく解りません。
従って便宜上、一般的に使われている文脈から汲み取ったニュアンスと、辞書の意味を汲み取って、自分なりに拡大解釈したものを以下に展開する事をご了承下さい。
そして、信用出来る定説が見つかり次第、記事を刷新する予定です。
叙述形式
上記にあるように、叙述は順を追って説明する事。
従って、叙述形式のストーリー展開は、時系列で最終的な結論に迫る手法です。大半の物語はこれに該当します。
物語に於いて重要なポイントは、受け手を飽きさせない事です。相手の興味・関心を持続させる事が大前提になります。
叙述形式は、結論に対する期待を煽る形で物語を牽引するのです。
例えばTVの文脈で言うと、CMを挟むタイミングって、原因から結果に向かう寸前の所で無理矢理ぶった切ってませんか?
そうする事で、「どうなるの?」と云う知的好奇心や、心理的な期待値を煽る仕掛けになっています。そのCMですら、「続きはWEBで」って言ってみたりね。
ただこれって、本編がサスペンス状態だからこそ機能する仕掛けだと思います。
既に結果を知っている場合や、サスペンス状態が発生していない場合(川のせせらぎの映像から、続きはCMの後で!と言われても)興味は持続しません。
そのままザッピングしたり、TVの電源自体を消してしまうかも知れません。
つまり、叙述形式がエンターテイメントとして成立する為には、心理的にサスペンス状態が不可欠と云う事です。
で、これを情報伝達に置き換えると、叙述形式は余程の話術の持ち主か、余程暇な状況下でない限り、相手の興味の持続性が保てません。
興味の無いミステリーを聞かされるのは苦痛です。僕が相手の立場だったら、貧乏ゆすりし始めるんじゃないかと思います。
しかも目的が情報伝達である限り、相応しい伝え方とは言えません。
仮に話が面白かったとしても、時限爆弾を止める為に青か赤のコードを切らなきゃいけないようなピンチな時に、爆弾処理の専門家に面白く叙述されても、「今それどころじゃねーんだよ!青なの!?赤なの!?」となるでしょう。
倒叙形式
そこで、倒叙形式です。
推理小説の文脈で言うと、古畑任三郎のように、最初から事件を引き起こした犯人が誰なのか、既に明かされています。
転じて、倒叙形式のストーリー展開は、予め最初の段階で「ハッピーエンドです」「バッドエンドです」って言っちゃう訳です。
そして、その結末に対して、何故そうなったのか。経緯を展開していきます。
この倒叙形式とPREP法が構造的に似ていると思うのです。
数字にすると、通常の起承転結が1.2.3.4だとして、倒叙形式は、4.1.2.3.4のようなイメージです。
例えば、日本人であれば知名であろう映画。火垂るの墓は倒叙に該当します。冒頭から主人公の清太が死んでしまう事が判った上で、死に至るまでの生が描かれていきます。
僕の見解だと、こうする事で劇中の兄妹の、生への緊張が一層強められているように思います。
結論から伝える事で相手の認知負荷が下がる
上記の倒叙形式のように、結論から伝える事の特徴は、最初に話の大筋を提示する事で敢えて先入観を象る点です。
言い換えると、目的地となるゴールを決めてからスタートする。と云う事です。
そうする事で、頭の結論がその後の展開に於いて、目印や物差しの役割を果たします。
情報伝達に於いては特に、これが有るのと無いのとでは、相手への認知的な負荷が違って来ます。
ゴールが不明のマラソン大会なんてあったら苦痛じゃないですか?
何故なら、あと1km先なのか、100km先なのか、いつ終わるのかが解らないからです。
これも正に、宙ぶらりんのサスペンス状態。エンターテイメントに於いては面白さの要素となりますが、時間制限のある仕事に限ってはストレスを生む要素になりうる。
従って、自分に対して興味・関心が低い相手や、時間の制約がある仕事上の遣り取りを背景にした状況に対しては、倒叙形式が相応しい伝え方となります。
上記の時限爆弾の件のように、目的によって、情報を受け取る構え方も変わってくるからです。
映画や落語を見に行くのであれば、叙述形式だろうと倒叙形式だろうと、話自体を叙述されていく様を目的としているので楽しめます。
つまり、人を楽しませると云う目的なら、叙述でも倒叙でも良いんです。
ただ情報を伝える。と云う目的となると、倒叙形式やPREP法。
即ち、結論から提示する伝え方が適切。と云う事になります。